流れ星スペシャル
ユースケが帰り、残りはオレと桂木さんとアズだけになった。
鉄板の前に並んで立つ桂木さんの様子をチラ見する。
「もっとゴネたったらよかったのに」
普段と変わらず、一生懸命お好み焼きを焼く桂木さんに思わずつぶやいた。
「あんなに簡単にハンコ押さんでもえーやん。そのうちに相手の男と別れて戻ってくるかもしれへんのに」
なぜかオレが抗議してしまう。
「だいたい桂木さんは、人が好すぎますよ。そんなに急いで離婚せんでも、もっとゴネて結論を先延ばしにしとけばいいのに」
あんなに想いが残っているのなら、って話。
そうすれば手離さないですむかもしれないのに。
ちょっと考えたらわかることやん。
それにこんな目にあわされて、少しぐらい困らせてやればいいと思う。
「ほんまやな」
と桂木さんは言った。
「オレもそうは思ったんやけど……」
と言葉を濁す。
焼けたお好み焼をアズに運んでもらって、次の調理に取りかかりながら、桂木さんはその続きをつぶやいた。
「子供……欲しいんやろなと思って」
「え」
「リカコもいつまでも若くはないから」