流れ星スペシャル


夕方――

オレが出勤すると、桂木さんはもう厨房でせっせと働いていた。

何事もなかったかのように。

うん。あの人らしい。




「おはよ」


流しで布巾を洗うアズに声をかけた。


「ぉは……ょ」


消え入りそうな声に驚いて、顔を見てさらにビックリ。


「お前、どーしたん、その顔!?」

「なんでもない」


そう答えたアズの瞼はボコッと赤く腫れあがっていて、人相まで変わっていた。


「いや、なんでもなくないやん」


けれどアズはオレの質問をスルーして、ただ布巾を洗い続ける。


「もぉっ、トシ! ちょっと来て」


うるるんがオレの腕をガッとつかみ、厨房の外へと引っ張っていく


「そぉっとしといてよ。アズちゃん昨夜からずっと泣いてたんやから」

「あー……。桂木さんが可哀想って?」

「は?」


オレが聞くと、ウルルンはあきれ顔になる。


「大好きな店長が、あんな圧倒的な強さでリカコさんのことを想ってるって知って、アズちゃん、ショックやったんやん」

「へ……え。けど離婚したんやで? むしろチャンス到来やろ?」

「わかってないなぁ、店長って全然表に出せへんけど、あんなに熱く切なくいっぱいいっぱいになるくらい、リカコさんを愛してるんやって実感してしまったわけよ」

「はぁ」



< 431 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop