流れ星スペシャル


その映画監督が新作を撮影中だという話を、そのときにした。

『公開されたら一緒に観に行きましょう』

そしてそんな約束を交わしたのが、この映画だった。


果たせなかった約束……。

ううん。約束とは言えないくらいのささやかな会話。

それでもわたしはその言葉を信じて、楽しみに待っていたんだ。


約束が果たされることはないと悟ったあとも、ひとりで観ることはなかった映画……。

作品自体に惹かれて、封切りを楽しみにしていたんだから、ひとりでも観にいけばよかったのに。

テレビで何度か放送されたのも知っていたのに。

それでもどうしてもひとりで観る気にはなれなずに、今日まできた。


社交辞令を真に受けた自分の滑稽さと、失恋のショック。

どうしようもなく、みじめで、悲しくて……。

そんな気持ちに引き戻されるのがつらいから、

そのタイトルさえ目にしたくない映画となってしまっていた……。


なのにさっき、レンタルショップの店頭で、その映像を目にしたとき、一瞬にして心が吸い寄せられた。

柔らかな光に包まれたその世界を『桂木さんと観たい』と思ってしまったんだ。


わかってるよ。

桂木さんはきっと、そんな他愛ない約束なんて忘れてるってことぐらい……。



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