流れ星スペシャル
「沢井さん、一緒に観る?」
低い声がそう聞いた。
「え」
お店での仕事中はともかく、勤務外では敬語寄りな桂木さんの口調が、いつもとちがって聞こえる。
「いいの……?」
「うん」
そう言うと彼は大きくドアを開いて、わたしを招き入れた。
ヒー……。
ド、ド、ドキドキしてくる。
初めて入る桂木さんの部屋。
この人のことだから、こんな夜中にわたしを部屋にあげたって、ただ一緒にDVDを観るって意味しかないんだろうけど。
「わ。きれいに片づいてるんですね」
部屋に足を踏み入れて、辺りを見まわす。
「いや、帰って寝るだけやから、散らかすヒマがないんです」
もう敬語に戻って、桂木さんはそこら中にファブリーズをシュッシュしだした。
「おっさんのひとり暮らしやから」
大丈夫?なんて照れくさそうに笑いながら。
「あ、うん。全然」
ワンルームの部屋には、対面式のキッチンカウンターがあり、スツールが2脚、無造作に置かれている。
その向こう側に大きく面積を占めているのは、シングルベッドで、
なぜか桂木さんがそこにも消臭スプレーをふるもんだから、ますますドキドキが大きくなっていた。