流れ星スペシャル


化粧室からオフィスに戻るとき、入口の手前で中村課長がスマホで話しているのが聞こえた。


「あほっ。一時になっても戻らんから心配するやろーが。客先へ行くんやったら、行くって言うとけよっ」


何やら大声で怒鳴っている。


「ええか、桂木。大丈夫や、オレが呼び戻したる。何年かかっても、必ず力つけて、オレがお前を一課に戻したるから」


わたしは思わず綾香さんと顔を見合わせた。電話の相手は桂木さんらしい。


「忘れんなよ。お前は一課のホープや。オレらの期待の星や。だからええな、いつでも堂々と胸を張っとけ」




そう言い切った課長の横を通り抜けながら、わたしたちはひそひそと言葉を交わした。


「意外といい人やったんですね、中村課長って」


「けど、これでわかったやろ? 男の人は呼び戻してもらえるねんわ。でもウチらはないで、使い捨てやし。そりゃ若い子の方がええに決まってるもん。桂木さんに同情してたら損するで」


綾香さんは低く……、そんなことをささやいたのだった。




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