黒狼と猫の総長様
『何してるの、姫さん』
そんな私を怪訝そうに見つめながら、新名が口を開く。
『……エレベーターに乗ろうとしてる』
『そう見えるけど。
理事長室、ここだよ』
そう言いながら新名は、自分の右手にある理事長室のプレートを指して笑う。
……そうだった。
『いつもエレベーター乗ってるの?』
『……まぁ、屋上から、だったから』
階段で下りると他の人達の視線が痛かったから。
『姫さん、ここ来る事、翔さん達に伝えた?』
翔に?
伝えた、はず。
多分。
『……ん』
『ちょ、何、その微妙な返事!』
多分なんだから仕方ない。
伝えた筈だ、多分。
『……さあ』
新名の方を見て口角を上げ、笑みを浮かべる。
『……姫さん、性格悪いね』
『……知ってる』
私の笑みを見て苦笑いを浮かべる新名の言葉に、サラッとそう返す。
『……ありがとう、新名』
理事長室のドアノブに手をかけて、ボソリとそういう。
『え?』
さっきのお返しなのか、意地悪な笑みを浮かべ、新名が聞き返す。
『……なんでもない』