僕等はまだ恋を知らない
こんなに君が好きなのに
私が部活へ戻った数分後に、涼しい顔で大翔くんがやって来た。
「大翔、遅かったな?」という同級生たちの言葉には「あー、ちょっとな」といつも通りの笑顔を見せる。
あまりにもいつも通りすぎる大翔くんに違和感を感じるのは、気のせいなんかじゃない。
教室に忘れ物なんてしてないくせに。
数十年間想い続けてきた初恋の相手に告白をしていたのだ。
まさかその現場を私が見ていたなんて夢にも思ってないだろう。
………そして、私が大翔くんを好きだということにも気づいてないはず。
大翔くんは澪しか見えていないから、周りの人の好意になかなか気づかない。
告白でもしない限り、一生気づくことはないだろう。