僕等はまだ恋を知らない
「澪ー、大翔くん来てるわよ?」
コンコンッとドアをノックする音の後に、聞き慣れたお母さんの心配そうな声。
これで何度目かなんて忘れてしまった。
「……………帰ってもらって」
そして、いつもと同じ一言で終わる。
沙耶と一緒に帰ったあの日から、部屋に閉じこもった生活が続いていた。
光がないこの部屋は、今の私にとって居心地がいい。
毎朝いつものように大翔は迎えに来てくれるけど、私はこの部屋から出ることはできなくて。
返事をしたらすぐ布団へ潜り直していた。