僕等はまだ恋を知らない


「嫌いなんて言ったのはちょっとした苛立ちと、やっぱり嫉妬かな」


「私なにか…………」



「澪があまりにも遠慮してるから、つい」


「へっ!?」


さっきまでの切ない笑顔が消え「えへへ」と髪の毛をいじりながらヘラヘラと笑っている。


びっくりして声が裏返ってしまった。



「九条くんのこと好きでたまらないくせにどこか大翔くんに気を使って」



くるりと背を向け、空を仰ぎながら沙耶は言葉をつなげる。



「澪の気持ちをはっきりさせるためにも大翔くんと九条くんを天秤にかけてみたの」



きっとあの日の言葉のことだろう。


『大翔くんと九条くんのどっちを選ぶの?』


私は、どっちかなんて選べなかった。


好きなのは九条くんなのに、大翔も大切で。


わがままな私の答えはきっと誰も許してくれない。


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