ウサギとカメの物語
美穂ちゃんから相談を受けてからけっこう日が経ってしまっているし、さすがにズルズル引き伸ばすわけにもいない。
思い切って神田くんをランチにでも誘ってみるか!
もしくは社内でどうにか2人きりになれるチャンスを作るか!
あ、それかもう飲みに誘っちゃうか!
ランチと飲みは「いえ、結構です」とか彼の可愛い笑顔で断られたりしたら、ちょっぴり地味に傷つくけど。
ひとまず社内で2人きりになれるチャンスを作る、という作戦を決行してみることにした。
いつも通りに業務をこなす中で、私は常に神田くんの動向を監視した。
彼はなかなかのおっちょこちょいで、たま~に小さなミスをやらかす。
そして真野さんがフォローしてあげては、神田くんは申し訳なさそうに全力で謝るのだ。
その謝り方と言ったら真面目以外の言葉しか当てはまらないって感じの、垂直90度に腰を折り曲げて綺麗に謝る。
それを目撃するたびに笑いをこらえるのに必死だった。
見ていて思うことは、神田くんってやっぱりとっても素敵な男の子だなってこと。
思わず応援したくなっちゃう雰囲気を持っていて、秘書課あたりの美女軍団にそのうち襲われたりしないか本気で心配になる。
午前中、神田くんは事務所から出ることはなく、2人きりになれるチャンスが訪れることはなかった。
お昼休みのランチの時に、奈々が疑わしげに私をジロッと見て
「ねぇ、コズ。今日は随分と神田くんばっかり見てるじゃない。まさか年下男子に恋でもしたか?そんなに恋に飢えてるのか?この間までのデートの相手はどうなった?」
と私の全てを見抜いてきた。
あらららら。
私ってそんなに分りやすい?
自分じゃまったくもって気づかれないようにしてるつもりなのに。
デートの相手……すなわち熊谷課長のことはなんにも言わずに、神田くんの話は奈々に説明しておいた。
美穂ちゃんに頼まれたということも、全部話してしまった。
なんなら奈々に協力してほしかったから。
でも奈々は面倒くさそうに「私はパス!」と丸々返してきた。
「厄介なことに首突っ込みたくないもーん」
「えぇ~っ、奈々~、協力してよぉ!親友でしょ?」
「頑張れ、頼れる先輩!」
ウィンクして作り笑いする奈々を見て、こいつには一生頼まれごとなんかしてやるもんかと心に誓った。