ウサギとカメの物語


「えっ?何が?」ってすっとぼけてみたものの。
カメ男の刺すような視線は私にチクチクと地味にダメージを与えてくる。


「私ってそんなに分かりやすいでしょうか」

「動きが挙動不審」

「そっかぁ~。探偵にはなれないね」

「100%不向き」


なにもそこまで言わなくたってさぁ!
私なりに努力してるんですけど。


頬を膨らまして無言の抵抗をしていると、カメ男が飲み終わったコーンポタージュの缶を自販機の隣に置いてあるゴミ箱に捨てる。


「探偵ごっこも程々に」


と言って、カメ男が私の前を通り過ぎていった。
どうやらヤツは休憩を終わりにして戻るらしい。


はぁ~、どうして私ってこうなんだろう。
出来もしない頼まれごとを引き受けたりなんかしちゃってさ。
お人好しって自分では意識してないけど、よく奈々に言われたりするから、やっぱりそうかのかな。


美穂ちゃんには悪いけど、今回のことは断らせてもらおう。
神田くんを1日見ていて思ったのは、彼を第三者の私が傷つけていい訳ないってこと。
関係の無い私に「これ以上美穂ちゃんにアプローチしないでね、迷惑がってるんだから」なんて伝えられたら、ショック以外の何ものでもないよね……。


よく考えたら、美穂ちゃんが好きな人を諦められないように、神田くんも美穂ちゃんを諦められないってことなんだから。
お互い様ということで。


ゴチャゴチャと頭の中で考え事をしていたら、フワッと私の肩に何かが掛けられた。


えっ?なにこれ?
戸惑いながら視線を落とすと、肩に掛けられたものがダークグレーのスーツのジャケットだということが認識できた。


ビックリして横を見ると、ワイシャツ姿のカメ男が私の顔を覗き込んでいた。


「ぎゃああっ!ビ、ビックリしたぁ!」


ジャケットを胸元にたぐり寄せながら小さく飛び跳ねると、ヤツは眉を寄せて


「あまりにも寒そうだから」


とつぶやいた。


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