ウサギとカメの物語


私も自分のデスクに戻ってゴミ袋を開ける。
事務課のゴミ袋にはほとんどメモとかティッシュとか、そういうものしか入っていない。


営業課の視線を感じながら、地味に確認作業を続ける。


「はぁ~。私、この作業が一番嫌い……」


と、奈々が向かいの席で小声でつぶやいてくる。


私だって一番嫌い。
この犯人探しみたいな行為をわざわざやるのって、何か意味があるのかと問いただしたくなる。
事務課の責任です、すみませんでした、じゃダメなのかな。
お客様に謝罪して、上に報告するために個人の社員名を載せなくちゃならないのかもしれないけど。


忘れてるだけで自分だったらどうしよう、という不安も付きまとってくるし。
そしてなにより、仕事を中断してやるから残業確定だし。


出そうになるため息をグッと堪えて、ゴミ袋の中身をひとつひとつ確認した。


他にも、デスクの上に散乱しているロス紙も全部見なきゃならないのよね……。
頭痛くなりそう。


クレームをつけてきたお客様の名前を頭の中で念じながら、黙々と事務課のみんなで確認作業をしていた。


カメ男がどこからともなく持ってきたダンボール箱に、確認を終えたレジュメを入れていく。
ダンボール箱は私の分だけで2箱もあった。


レジュメの触り過ぎで紙で指を切ったり、マイナートラブルに見舞われつつ。


気づいたらとっくに定時の17時半を過ぎていた。


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