ウサギとカメの物語
変な気持ちになった。
なんていうか、胸のあたりが疼くみたいな、そんな感じ。
この感覚ってなんだろうな、って。
更衣室で着替えている間もずーっと私の周りをまとわりついて、妙に離れない変な感覚。
あんまり気にしないようにしよう、と思いながらベージュのコートを羽織った。
翌朝、女子更衣室でバッタリ会った真野さんに、昨日のことを再度謝られた。
「昨日は本当にごめんなさいね。大変な時に先に帰っちゃって……」
「真野さん!本当にいいんですって、気にしないでください!」
「ありがとう~、コズちゃん」
両手を合わせて感謝する真野さんは、やはり昨日あのあとどうなったのかが気になるようで、ヒソヒソ声で私に耳打ちしてくる。
「結局、誰が電話を取ったのか分かったの?」
「あ……、美穂ちゃんだったみたいです。21時くらいにメモが見つかって、自分から言い出してくれて。それで分かりました」
どこまで話すべきなのか迷った。
美穂ちゃんだって悪気があってやった訳ではもちろん無いのだし、彼女ばかり責め立てるのも申し訳ない。
でも、真野さんはあくでも事務課のリーダーという立場でもある。
一応すべて話しておいた方がいいのかもしれない。
熊谷課長が吐いた暴言も、美穂ちゃんが泣いてしまったことも、それから、カメ男がなかなかの活躍を見せたことも。