ウサギとカメの物語
これから田嶋がご自慢のマイカーを運転してここにやって来る予定なのだ。
うまいこと彼に口利きして奈々が田嶋に車を出すように言ったらしく、ついでに私も乗っけてもらえることになった。
まぁ、本音を言えば私としてはいつも駅から無料で出ている旅館の送迎バスでもなんでも良かったんだけど。
奈々が誘ってくれたから乗ることにしたというだけ。
待ち合わせの約束時間を5分ほど過ぎた頃、白い乗用車が私たちの前に停まった。
車体を低くした、改造車って感じの車。
田嶋って車好きなんだ。
若々しい改造なんて施しちゃって。
私は好きじゃないけど、奈々はもう彼のやることなすこと全部がタイプだろうから構わないんだろう。
運転席から私服の田嶋が降りてくる。
相変わらずの優しそうな笑顔をこちらに向けながら、
「2人ともお待たせ。後ろに乗って」
と後部座席を指差す。
「失礼しまーす」と声を揃えて乗り込んで、助手席にすでに誰かが乗っていることに初めて気がついた。
「須和も一緒だったんだぁ。ほんとあんたら仲いいよね」
奈々が笑うと、運転席のシートにもたれた田嶋が呆れたように
「それはこっちのセリフだよ。そっちこそいつ見ても2人でいるじゃないか」
と言いながら、車を出発させた。
カメ男はというと、私たちが乗り込んできたにも関わらず何か発言もすることも無く。
窓の外に視線を泳がせてボーッとしている。
しきりに後部座席からやいのやいの話しかける奈々と、それを丁寧に拾い上げて楽しそうな田嶋。
もう付き合えっての、ほんとに。いい加減。
漏れそうになるため息を押し殺して、ボサボサの髪の毛が見え隠れする助手席に視線を移した。
カメ男の私服ってどんなだろう。
普段スーツだから、こういう時でもないと知る機会が無い。
私の位置からはどんな服を着ているのかまでは分からなかった。
そもそも2ヶ月前に、私はヤツのアパートに泊めてもらったんだけど。
あの時は部屋着だったからヤツのセンスとかイマイチ曖昧だったし。
……って何考えてるの、私。
ヤツのセンスやら私服やら、どうでもいいはずでしょうが。
と、お決まりの1人ツッコミを頭の中で繰り広げながら道中過ごした。