ウサギとカメの物語


旅館に到着すると、入ってすぐにロビーに総務課の社員が何人か立っていて出迎えられた。
ここで出席を取るのだ。


総務課の中から同期の久住が私たちを見つけて、独特の歩き方でこちらへ向かってくるのが見えた。
なんていうか、お尻を突き出して左右に振りながら歩くのだ。
そう、彼女は世にも恐ろしいダイナマイトなボディを持った、体に関してはいわば私と真逆の女。
ただし………………ものすごく地味。


キッチリ1本に縛られた腰まである真っ黒な髪の毛はストレート。
細い茶縁のメガネはレンズが大きくて、そして化粧っ気もほとんど無い。
薄化粧なのだ。


その顔に不釣り合いなグラビアアイドル並の胸とお尻を遺憾無く発揮できるような、体のラインが出るタイトなワンピースを着て、そしてやたらと強気な口調で私たちに声をかけてきた。


「あなたたち!こっちよ!」

「出た!久住」


小声で奈々がうんざりしたようにため息をついている。


奈々は彼女のことが苦手らしいんだけど、私はいつも面白いなぁと思って見ている。
地味な風貌に似合わず仕切り屋なところとか、ギャップが面白くて目が離せない。


「大野さんたちはこっちよ!鍵を渡すから!そっち!須和くんたちはそっちで受付して!」


そのいちいち語気を強める話し方、なんとかならないのかな。
そう思いながら言われた通りに受付をして、部屋の鍵を受け取った。


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