ウサギとカメの物語
ここから先は田嶋とカメ男の2人とは別れて、完全に別行動になる。
奈々は離れがたそうな視線を田嶋に送りながら、「あとでね。宴会場でね」と手を振っていた。
「クリスマスに会う約束はとりつけたの?」
渡された鍵の番号を確認しながら部屋へ向かう途中、試しに奈々に尋ねてみた。
クリスマスに田嶋に告白して、そのあとのことを考えて勝負下着まで買っていた奈々。
さすがにすでに誘ったとは思うんだけど、どうなのか気になっていた。
すると奈々は力いっぱいうなずいていた。
「イブの夜に約束とりつけた!空いてるって!ヤバいよね〜、あと20日切っちゃったよ」
「大丈夫、上手くいくよ」
「そうかなぁ……。不安だわ……」
だから、気づいてないの本人たちだけで2人とも間違いなく両想いなんだってば。
見てる方はもどかしいんだからね!
さっさと勝負下着でもなんでも付けて、さっさと脱がされちまえ!
……なんて、下品な心の声はしっかり抑えておいた。
部屋に荷物を置いて、奈々がコッソリ持ち込んだケーキを備えつけの冷蔵庫に入れて。
少しばかりお茶を飲んでまったりしたあと、宴会場へ向かうことにした。
ここから戦場なのよね……。
社員旅行なんてロクなことない。
やる気のない同期の中で、私くらいしか上司にお酌しに行かないんだから。
ほんとに呆れるわ。