ウサギとカメの物語


スリッパをパタパタ言わせながら、落ち着いた深緑のフカフカの廊下を軽快に歩く。


ヘアクリップで留めた髪の毛はまだ生乾き。
でも、部屋で奈々と飲んでるうちに乾くでしょ。
早くこの乾いた喉に、キンキンに冷えたビールを流し込みた〜い!
おつまみもいっぱい持ち込んできたし、焼酎だって持ってきたし。
そういえば、奈々は私のためにケーキまで買ってきてくれてるんだった。
誕生日の夜は、奈々と楽しい宴会だ!


ルンルン気分で部屋のドアを開けて、鼻歌を歌いながら入口でスリッパを雑に脱ぎ捨てる。


その時、私は足元をよく見ていなかった。
ちゃんと見ていたなら、先の出来事を予想出来たかもしれないのに。


ガラッと勢いよく引き戸を開けて、「ただいま〜!」と声をかけた瞬間。


私はその場に固まった。





2組敷かれた布団のうちの1つに、もつれ合う男女。


え?え?なに?
何が起こってるの?


心臓が止まりそうなくらい驚く私の目に、同じようにものすごく驚いた顔の男女がこちらを勢いよく振り向くのが見えた。




田嶋と奈々が、完全に「そういうモード」に入っている最中だった。


考える間もなく、無意識にバンッ!と音を立てて引き戸を閉めた。






バクバク音を立てる心臓が自分の耳に届いてきて、恐ろしいほどにうるさい。


なんなの?
一体なんなのよ〜!!


完全にパニック状態に陥っているはずなのに、無意識にちゃんと引き戸を閉めてやった自分を褒めてやりたい。


< 137 / 212 >

この作品をシェア

pagetop