ウサギとカメの物語


カメ男が持ってきたものは、大浴場のそばにある自販機で売られていた、高級アイスメーカーのバニラアイス。


2つ持っていて、そのうちの1つを私の手に乗せてきた。


「誕生日おめでとう」


カメ男はそれだけ言って、先程座っていた場所にまた腰を落ち着けると自分のぶんのアイスを食べ始めた。


私はかろうじて、


「ありがとう……」


とつぶやいた。


ビックリしちゃうんだけど。
ついさっきまで感じてた寂しい気持ちが、あっという間に消え去ってしまった。


私の大好物がバニラアイスだって、覚えててくれたんだってこと。
そして、ヤツに「誕生日おめでとう」って言われたこと。


めちゃくちゃ嬉しくて、でもニコニコできるほどそこまでは素直になれなくて。


ニヤけそうになる頬を強ばらせながら、冷たいアイスを堪能した。








あぁ、私。


好きになっちゃったんだな、カメ男のこと。


大好きでたまらない存在になってしまったんだ。


ねぇ、どうすればいい?
こんな気持ち、困っちゃうよ。




< 143 / 212 >

この作品をシェア

pagetop