ウサギとカメの物語
あのあと、旅館の一室で1晩を過ごした私とカメ男は、朝食会場ですっかりラブラブモードフルスロットルでイチャイチャしながら朝食を摂る田嶋と奈々を発見。
うんざりしたように顔を見合わせた。
まったり歩くカメ男を放置し、突進するようにバカップルの元へ駆け寄ると、オフホワイトのクロスが掛けられたテーブルをドン、と叩いてやった。
「どういうことなのか説明して」
田嶋と奈々はイチャイチャトークを一旦やめて、ペコペコと私に土下座をする勢いで謝りまくり、ついでに少し遅れてやって来たカメ男にも謝りまくっていた。
「ごめんごめん、コズ。あ、須和も。ほんとにごめんなさい」
謝りまくってるくせに、奈々の顔はニヤけていて。
向かい合わせに座る田嶋の顔もものすごいニヤケ顔だし。
当てつけのような2人の幸せ全開のオーラが私を苦しめるのだった。
カメ男は大あくびをしてから、のんびりとした口調で
「まぁ、良かったじゃない。とりあえず」
と言うので、私の怒りもそこでようやく鎮火する。
「そうだね。おめでとう」
「ありがとう〜!」
満面の笑みを浮かべて照れる奈々は、私とカメ男を同じテーブルに座らせると朝食を取りに行ってくれた。
あとから奈々に詳しく聞き出したら、昨夜の経緯を話してくれた。
宴会場で泉営業所の横山という男に口説かれた奈々。
同じ会社の人だから、ぞんざいに扱うのも申し訳ないという思いからそこまで断ることも出来ずに困っていた。
それを見た田嶋が、「どうしてハッキリ拒否しないんだ!」って憤慨したらしくて。
不機嫌MAXになって後半は奈々と口を聞かなかったらしい。
それで、宴会が終わってそれぞれ温泉に入って、上がったあとにバッタリ廊下で遭遇。
そこでようやく田嶋が奈々に告白し、昨夜の流れになったということだった。
ははぁ。
そういうわけであんなに熱烈にもつれ合ってたってワケなのね。
今思い出しても目に浮かぶわ、君たちのラブシーン。
それにしても、田嶋。良くやった。頑張ったね。
と、上から目線で優男の彼を眺めつつ朝食をモリモリ食べた。