ウサギとカメの物語


親友の恋の成就は本当に喜ばしくて嬉しいんだけど。
今度は私なんですよ、恋してるのは。
そして厄介なことに、何を考えてるのかいまいち分かりづらい男なもので。
言葉も表情も人一倍乏しいヤツなので。


どうにもこうにも奈々にも打ち明けられずに、自分の力で頑張るしかないんだと言い聞かせていた。


会社に出勤して真野さんに温泉のお土産で饅頭を渡した時に、彼女に思ってもいなかったことを言われた。


「あらっ?なんだかコズちゃん、すごく綺麗になってない?」

「えぇっっ!?そ、そうでしょうか!?」


どこが?どのへんが?
温泉に入ったから?


慌てて顔をまさぐっていたら、真野さんがなんだか楽しそうに口元を覆いながら


「恋でもしてるのかしらね〜?」


ってからかってきた。


怖い!
40代の鋭い女性ってほんとに怖い!
真野さん、私、何も言ってませんよね!?
一言も言ってませんよね〜!?


急いで作り笑いをして首をかしげて見せる。
というか、そういう反応くらいしか出来なかった。


「し、し、し、してませんよ、恋なんて!!どこにもいい人いなくてほんとに困ってるんですから!!あーあっ、どこかに超かっこいいイケメンでも落ちてないかなぁっ!!」

「あらまぁ〜、そうなのぉ〜?」


ほほほ、と笑う真野さんを見て、本気で思った。


真野優子、おそるべし。と。


< 147 / 212 >

この作品をシェア

pagetop