ウサギとカメの物語
もう、この後に及んでこれ以上私に何を言いたいわけ?
平凡で普通レベルって連呼してた私に。
相手にするなら秘書課の綺麗なお姉様の方が有意義だと思うんだけど。
今度は何を言われるんだろう、と半ば気落ちしながら課長についていくと、彼は自分のデスクの前に私を立たせ、卓上カレンダーを差し出してきた。
え?なにこれ?
ポカンとしていると、課長がデスクの上から1枚のレジュメを取り上げてそれに目を通しながら
「大野さん、君にお願いがあってね。24日から29日まで、岩沼支店にヘルプに行ってほしいんだ」
と言ってきた。
「………………ヘルプですか?」
「そう、ヘルプ。行ったことない?初めて?」
首をかしげる課長に対して、私は何度もコクコクとうなずいた。
そっちの話じゃなくて、ガッツリ仕事の話だったか!
私としたことが……。
むしろヘルプの話が急に来たからかなり動揺していた。
「岩沼支店の事務課に、妊婦さんが1人いるらしいんだけど。体調崩してしばらく休むんだって。それで年末の1番忙しい時だけヘルプが必要ってわけなんだ。……君のことを推薦しといたから」
スラスラと説明口調で淡々とそれらを告げて、最後にニッコリ笑いかけられた。
私も騙されていた、あの爽やかな笑顔。
それを思いっきり向けてきた彼の真意とは?
「あ……、でも……。私も年末は仕事がたくさんあって……」
断るつもりは無かったけど。
でも本当に仕事が立て込んでいて、正直なところうちの事務課だって私が抜けたらけっこう大打撃だと思うんだよね。
それでゴチャゴチャ言い訳をしようとしたら、課長にピシャリと遮られた。
「他のメンバーに引き継いでおいて」
「………………分かりました」
シュンとして了解するしかなかった。