ウサギとカメの物語


自分のデスクに戻りながら、熊谷課長の爽やかな笑顔を思い出す。
あの笑顔は、いつもとちょっと違ってた。
目が笑ってなかったからすぐ分かった。


岩沼支店へのヘルプは、きっと私を困らせるためのいわゆる意地悪みたいなものなんだろう。
自分の思う通りにならなかった私への、ちょっとした嫌がらせ。


推薦した、なんてかっこいい言い方していたけど、そうじゃないんだろうなぁ、きっと。
本社勤務しか経験の無い私が、慣れない環境で仕事をするのはそれなりにストレスがかかる。
それを見越して、行けと命じてきたに違いない。


くっそぉ。
思うようには行かないぞ、課長。
私、これでも人当たりはいい方なんだから!
他の支店でだって、楽しく仕事出来るんだからね!


プリプリ怒りながらデスクの回転イスに腰かけてため息をついていたら、向かいの席の奈々が心配そうに尋ねてきた。


「課長と何話してたの?」

「月末、岩沼支店にヘルプに行くように言われた」

「えーっ!?いつ!?」

「24日から29日」

「クリスマスイブじゃん。最悪だね〜」


奈々の言葉を聞いて、私は急いで自分のデスクの上に置いているカレンダーに目を向ける。


わーお、ほんとだ。
そりゃそうか。今は12月だものね。
しかも仕事納めは29日だから……。
クリスマスイブから年末、お正月を飛び越えて、年明けにしか本社には来られないってこと。


カメ男に10日以上も会えないってことなんだ。
あらら〜、なんてこったい。

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