ウサギとカメの物語
私が勤める会社の近くの一角にたくさんのケヤキの木が並ぶ通りがあって、そこで毎年12月になるとケヤキにLEDライトを巻き付けてとても綺麗なイルミネーションの通りが出来上がる。
「光のページェント」と呼ばれるそのイベントは約1ヶ月ほど続いて、通りが人で溢れかえるくらい人気のイルミネーションなのだ。
せっかくだからカメ男と見に行きたいと思って、ヤツを無理やりそこへ連れ出す。
人混みとか絶対苦手なんだろうなぁと思っていたら、案の定ヤツの顔はかったるそうなものに変わっていった。
5分ほど歩いてそのイルミネーションが輝く通りに出て、人混みに紛れる。
さっきの人たちの話では昨日点灯式だったようだから、この景色はまだ始まったばかりみたいだ。
会社帰りのOLやら学生やら老夫婦やら、そして恋人たちがひしめく中、私とカメ男も光り輝くイルミネーションのトンネルを歩く。
幻想的なその美しさを記念に残そうと、一生懸命携帯のカメラで撮っている人たちも少なくなかった。
「こういうの、興味無いでしょ」
隣をのそのそ歩くカメ男の腕を小突くと、ヤツは感情を隠すことなくハッキリとうなずいていた。
「だって要は電飾でしょ」
「うわぁ〜、夢が無いね」
「こういうの、大野も好きなんだ。意外」
「意外?」
それってどういう意味よ。
そんなに私って女らしくないのかね?
一応私だってそれなりに女としての憧れとか願望とかあるんですけど。
「ロマンチックなのとか結構好きだよ」
「ふーん」
「はいはい、どうせ興味無いんでしょーよ。分かりましたよ。連れてきて後悔したわ」
はぁぁ〜、ってこれみよがしに分かりやすくため息をついてやったら、カメ男もお返しとばかりにため息をついてきた。
お互いのため息は白い息となり、イルミネーションが輝く空間に浮かんで消えていく。
その時、カメ男がちょっと口元を緩めて笑っているのが見えて、私も吹き出してしまった。
「何笑ってんのよ」
「そっちこそ」
なんでもないくだらないことで笑い合えてしまうなんて、ちょっといい雰囲気な気がしてテンションが上がる。