ウサギとカメの物語
気を取り直して、カメ男に尋ねてみる。
「年末の同期会は参加するの?」
これを聞いたのには理由がある。
正直、申し訳ないけれど、私は毎年ヤツが同期会に参加していたのかどうかさえ覚えていない。
だってつい2ヶ月ちょっと前は存在すら危うい人だったもんだから。
今までの色々なことを、ほとんど知らないのだ。
カメ男はキラキラ輝くイルミネーションを、やる気のない顔でボーッと眺めたままの状態でボソボソ答える。
「うん。参加の予定」
「私も参加するよ」
「ふーん」
くそぅ。
興味無いって感じの返事だな。
どんなことなら興味持って話をしてくれるんだか。
「須和って田嶋以外に仲いい同期っているの?」
ってイヤミのつもりで言ったんだけど。
どうせ「いや、いない」とか「2、3人いる」とか。
そんな返事が来ると思ってたのに。
ヤツが返してきた言葉は私の予想外のものだった。
「いるよ。……大野とか」
「…………………………………へ?」
間抜けな声が自分の口から漏れ出て、しかも足まで止まっちゃって。
目も口も中途半端に開いた状態でカメ男の顔をまじまじと見つめてしまった。
ヤツは別に特別なことを言ったつもりでもないようで、私が立ち止まったからか同じように足を止めて細い目をパチクリと瞬いた。
「俺と大野。仲いいと思ってたけど。違う?」
ヤバいっ!!
これはヤバいよおおおおおおお。
キュンとしてしまいましたあああああああ。
梢は30のクリティカルヒットを受けましたあああ。
胸いっぱいお腹いっぱいな気持ちになって、ウンウン、とうなずく。
「あとはいない。でも別にそれで不自由してる訳でも無い」
「はぁ」
「順にはよく言われる。営業に回されなくて良かったな、って」
「はぁ」
「………………もしもし?」
せっかくカメ男が自ら発言して話してくれてるのにも関わらず、私はさっきのクリティカルヒットがこたえてしまって、もはや力のない返事しか返せなかった。
初めて2人で見た冬のイルミネーションは、ヤツによって精神状態が崩壊してしまったとさ。
とほほ。