ウサギとカメの物語
さやかの言ってることはごもっともで。
たぶん、今までの私なら好きな人がいようが片想いならば即座に参加の意思を表示していたと思う。
でもどうしてか分からないけれど、カメ男のことを考えるとうなずくことが出来ず。
私っていつからこんなに一途になっちゃったのかしら、と自分で自分が恥ずかしくなるのだった。
なかなか返事をしない私の心中を察したらしく、さやかもそれ以上押してくることはせず、
『返事は急がないから、考えておいて!』
と、それだけ言うと電話を終えた。
真っ暗になった画面をしばらく眺めていた私は、一筋縄には行きそうにないカメ男との恋の行く末を案じて、ちょっと虚しくなった。
ヤツの知らないところで一途になったって意味無いんだよね、本当は。
だったら少しくらい打算的になって、計算高い女になってもいいと思うんだけど。
いかんせん何故かそれが出来ない現状。
私ってば相当カメ男に惚れ込んでるんだなぁ、って確認した瞬間でもあった。
面白い話をしてくれるわけでもない、食事に誘ってくるわけでもない、ワケの分からないカメ男。
それでも、そんなヤツを好きになっちゃったんだから私も困ったもんだよ。
仕事で疲れた体をソファから起こして、エアコンのスイッチを入れて暖房をつける。
マフラーを外して、コートを脱いで。
暖房がつくまでに時間がかかるから、冷えきった体はなかなか温まらなくて。
こんな時、寂しいなぁって思うんだ。
そばに、隣に。
カメ男が……須和がいてくれたらなぁって。
一緒にいられたら、寂しさも寒さも吹き飛んでしまうのに。
でも、さすがに怖いな。
告白して振られる結果になったら。
だから、なかなか踏み出せなくて悩んでる。
楽しいことでも考えよう!と気持ちを切り替えて、明るい気分になるようにテレビのリモコンで電源をつけた。