ウサギとカメの物語


ええじゃないか、ええじゃないか。
もうこうなったら寂しい独身彼氏無し女を真正面から認めようじゃない。
開き直ろうじゃないの。
それでこそ大野梢でしょ!


誰に対抗してるのか自分でも分からないままお店の中のガラスケースを見て回り、コレ欲しいアレ欲しいと彼氏にすり寄る女どもを押しのけて。


人生初のダイヤモンドなる高級な石がついたゴールドのネックレスを購入してしまった。


いや、ダイヤって言ってもね、ものすごーーーくちっちゃいんですけどね。
あら、少しキラめいてるわね、って分かるくらいのちっこいダイヤですよ。
でも人生初なんです。
それを自分のお給料から出して買うなんて、なかなかの虚しさを感じましたけども。


店員さんにすすめられて身につけて、細いチェーンの先に揺れるダイヤったらまた綺麗で。
即決で購入した。


さすがダイヤモンドさん。
結構なお値段したけれど、自分へのご褒美ってことで。


完全に勢いのみで買ったネックレスが入った袋をぶら下げて、私は気分良くお店を出た。


そこで。
信じられないことに。


須和と出会った。




たまたま通りかかったカメ男はすぐに私に気がついて、あ、と声を出していた。


「お、お疲れ様〜」


一人寂しくクリスマス直前にアクセサリーを買った現場を目撃され、いたたまれない気持ちで無難な言葉をヤツに放つ。


アーケード街にはたくさん人が行き交っているのに、それでも出会っちゃうなんてさ。
これって運命かなって思っちゃうよね。

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