ウサギとカメの物語


あまりにも全速力で走ったもんだから、アーケード街を抜けた頃にはヘロヘロになってしまった。


ハァハァ、と肩で息をしながら、後ろを振り返る。


まぁ、もちろんのこと。
カメ男が追いかけてくるなんてことは一切合切無く。


息を整えて、潰れた紙袋も整えて。
肩から外れかけたショルダーバッグをもう一度肩にかけ直して。


何事も無かったように歩き出す。


アーケードの中を歩いている時には気づかなかった。
雪がチラチラと降っていた。


どうりで寒いわけよね。
私の心と同じくらいに。


ガラス張りのショーウィンドウに映る自分の姿を見て、初めて気がついた。


うわ〜……。
私、泣いちゃってるよ、おいおい。
ひっどい顔してるよ。


こんなハズじゃなかったのになぁ……。







勢いに任せてダイヤモンドを買ったら、勢いに任せて告白もしちゃって。
そしてその告白は、間違いなく私史上最も最低な告白だった。






カメ男のバカ野郎。


全部全部、あんたのせいなんだから。



でも、良かった。
明日から岩沼支店勤務で。


あいつと顔を合わせなくて済む。


あの困ったような顔はもう二度と見たくない。




グイグイと素手で涙を拭うと、鼻をすすりながら駅のホームに降り立ったのだった。










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