ウサギとカメの物語
9 ウサギとカメの午前0時。
岩沼支店へのヘルプに行く日を迎えた朝。
すなわち、カメ男に告白をした翌朝。
死ぬほど醜い顔で起きた朝。
洗面所で悲鳴を上げた。
だってさ、泣きまくったせいで瞼が腫れちゃってて。
見るも無残な顔になってたんだもん。
こりゃ岩沼支店で話題になっちゃうよ。
本社から末恐ろしい顔の妖怪が送り込まれてきた、って。
こうなりゃ「ようかいしりとり」でも歌っちゃおうか。
冷凍庫からアイスノンを出して、瞼に当てながらいつもより早めの時間に家を出るために準備をする。
テーブルの上に置きっぱなしにしていた紙袋から、人生初のダイヤモンドがついた(しつこいようですがちっこいやつ)ネックレスを取り出して、首元に身につける。
あぁ、可愛い。
ネックレスは可愛いんだけど、つけてる本人の顔がとんでもない。
午後くらいになれば腫れは引くかしら。
すっぴんよりはマシになりますように、という願いを込めつつメイクをしながら、昨夜のやらかした告白を思い返す。
………………結局、いつもと同じパターンになってしまった。
気持ちを隠し切れなくて、好きだと自覚した1ヶ月以内に告白するパターン。
でも今回のは、あまりにも衝動的っていうか。
私を女だとちっとも意識してないカメ男への、嫌がらせみたいな告白だったなぁ。
はぁ、と重苦しいため息をついて、ファンデーションのコンパクトを閉じた。
唯一の救いは、今日から約1週間ヤツに会わなくて済むこと。
こうなったら29日の同期会もサボってしまおうかな。
久住には年明けに怒られるかもしれないけど。
でも、ヤツのとぼけた顔を見るのは無理だし……。
あああああああああ。
勢い余って告白した私のバカあああああ。