ウサギとカメの物語
お昼休みになると、みんな自分のデスクで昼食をとる。
それも本社とは大きな違いがあった。
本社は街中よりは少し外れているけれど、ちょっと歩けば繁華街に出るし、ランチするお店も選び放題。
でもこの支店ではほとんどの人がお弁当やパンなどを持参して、自分のデスクで食べるのだ。
周りに目立った飲食店があまり無いというのも要因の一つかもしれない。
毎日のランチは私の楽しみでもあったので、ちょっと物足りないような気もしたけれど。
念のため朝にコンビニでおにぎりを買ってきて正解だった。
おにぎりを頬張りながら携帯を見ると、さやかからラインが入っていた。
『30日の合コンは参加することにしたの?それともやめる?』
その文章を読んで、そういえば消防士との合コンに誘われていたということを思い出した。
参加するかしないか、答えは保留にしてたんだった。
一瞬迷った。
参加したところで楽しめるのかな、私。
でももしかしたらその合コンで運命の出会いとかあるかもしれないよね。
……ってこの後に及んでそんなロマンチックな展開、あるわけないか。
でもカメ男のこと、忘れたいなぁ。
他の男と話してれば少しは忘れられるかな。
素早く文字を打ち、返信した。
『参加する!』と。
ついでに目をハートマークにしたネコのスタンプもつけておいた。
━━━━━これでいいんだ。
忘れる努力って必要だと思うし。
気が紛れることもあるだろうから。
同じ会社の、同じ部署に好きな人が出来て、そして振られるって。
一番イタイ社内恋愛のパターンじゃん。
もう昨日今日で何回ついたか知れないため息を、またついた。