ウサギとカメの物語
疲れた。本当に疲れた。
精神的に疲れた。
なにがどうして悲しくて、今まで記憶の片隅にしかいなかった同期の家に泊まることになって(道端に捨てられてたらそれこそ一生呪ったけど)、
そいつに熊谷課長への淡い恋心を知られ(自分で暴露したらしいんだけど)、
挙句の果てにキャミソール1枚パンツ1枚の半裸姿を見られ(自分から脱いだらしいんだけど)、
化粧の崩れたオバケみたいな顔を見られ(記憶を失った自分が悪いんだけど)、
もうなんか、すっっごい疲れ果てた。
ダルッとした足取りで5センチのヒールを引きずりながら、携帯を片手に歩道を歩く。
化粧を直した私はベッドに腰掛ける置物、いやでくの坊に、一応否が応にも助けてもらったお礼くらいはきちんと言わなくちゃと思って「本当にありがとう」と伝えて家を出た。
玄関を出て気づいた。
わりと小綺麗なレンガ造りのアパートで、ヤツの部屋は2階。
階段をカンカンと降りながら、「まぁまぁ片付いたシンプルな部屋だったなー」とかでくの坊の余計な情報を思い出す。
そして、ここはどこ?と階段を降りてから気づいたんだった。
今現在の私は、携帯のナビ機能に頼りながら最寄り駅に向かって歩いている途中というわけである。
割れた携帯の画面を眺めて気づいたのは、ヤツの家の最寄り駅から私の住む家の最寄り駅まで、電車で4駅ほどの距離しかないということだった。
まぁ、同じ会社なんだし。
同じ電車の沿線上に住んでいるのは当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。