ウサギとカメの物語
「 いっつも忙しなく動いてるから、大野ってウサギみたいだ 」
そんなこと言ってたな。
あれ絶対に私のことけなしてる。
心の声が聞こえたもん。
落ち着きのない女だな、って。
ふんっ!
自分なんて存在感ゼロのただ単にデカいだけのでくの坊のくせに!
置物みたいに微動だにしないくせに!
メガネ外すと誰だか判別もされないくせに!
あのでくの坊メガネ置物男!
……長いな。
別なあだ名考えないと。
瞬間、のそのそゆっくり歩くヤツの姿が思い浮かんだ。
カメじゃん。
あの動き、完全にカメと一緒じゃん。
カメ男でいいわ、ピッタリ。
カメ男、カメ野郎、カメ吉!
口には出せない汚い言葉を心の中で吐いて、駅前のパン屋さんで惣菜パンを2個買って、ようやく電車に乗り込んだ。
この日から、同期の須和柊平は「カメ」になった。
あの動きが鈍くて、やたらとゆっくり歩く甲羅を背負った緑色の動物。
そう思ったらヤツはカメにしか見えなくなった。