ウサギとカメの物語
おそらくベッドだと思うんだけど、そこに私の体はゆっくり降ろされた。
履いていたショートブーツを脱がされて、ヤツの気配が部屋から消える。
玄関に靴を置きにいったかな。
うっすらと目を開けると、やっぱりそこはカメ男の部屋だった。
約3ヶ月前にも泊めてもらった、ヤツの部屋。
前と同じで、部屋はこざっぱりしていてまぁまぁ片付いている。
コートも着たままベッドに横たわる私って、ヤツの目にはどう映ってるんだろう?
27歳にもなってお酒にのまれるなんてバカな女とか思われてたりして。
バカでけっこう。アホでけっこう。
私はその時の感情に任せてなんでも行動しちゃう、正真正銘自他共に認めるバカなんだ。
カメ男のことがいまだに好きで、嫌いにもなれない中途半端な私……。
やがてドアが開く音がして、ヤツが部屋に戻ってきたようだったので慌てて目を閉じる。
ピッと何かのスイッチを入れる音。
そして、少し経ってから機械的なゴーッという音。
寒いから暖房でもつけたんだろうな。
確かに部屋の中は冷え切っていて、指先とか足先とかかなり冷たい。
そこから先は、暖房の音以外はなんの物音もしなかった。
カメ男の気配はあるから部屋にはいるみたいだったけれど、動き回るわけでもないし、テレビを見るわけでもないし。
じっとして、何をしているんだろう。
気になって仕方がないけど、寝たふりはやめられなくて。
迷っているうちに時間はどんどん経過していった。