ウサギとカメの物語
どのくらい時間が経っただろうか。
目を閉じ続けていたから、本気で眠くなってきちゃって。
意識が途切れ途切れになっていた。
そこで、私の頬に突然何かが触れてビクッと体が震えた。
一瞬にして目も覚める。
おかげでせっかく寝たふりをしていたのに、勢い余って目を開けてしまった。
私の目の前にはカメ男の右手があって、今頬に触れたのはどうやらそれだったらしいことが分かった。
パッチリ開いた私の目と、カメ男の驚いたように少し見開いた目がしっかりと合う。
ヤツはベッドのすぐそばのフローリングの床にスーツ姿のまま座っていて、こちらを見ていた。
「起こしてゴメン」
カメ男はすぐに右手を引っ込めて、「頭とか痛くない?」と体調を気遣ってきた。
コクンとうなずいた私は、横向きに寝たまま部屋の真っ白な壁に掛けてあるシンプルな時計に目を向ける。
ちょうど午前0時。
終電だってもう無い。
「帰れ、なんて言わないでね……」
私はそうつぶやいたけれど、カメ男は何も言ってくれなかった。
帰れ、って言いたいのかな。
そんなの悲しくて涙が出る。
潤みかける目を瞬いて涙をごまかした私は、勢いよく起き上がると
「帰る」
とカメ男に告げた。