ウサギとカメの物語
部屋の真ん中に配置されている黒いテーブルの横に私のショルダーバッグがあったから、それを引っ掴んで足早に部屋を横切る。
ドアを開けようとしたら、後ろからカメ男がドアノブを押さえ込んできて開けられなくなった。
ビクとも動かないドアを睨みつけながら、でも決してヤツの方は振り向くまいともがく。
「ちょっと何すんのよ!帰るって言ってるでしょ!?」
「ちょっと待って」
「待ちません!!帰る!!」
深夜だというのに大声で喚いてしまった。
隣の部屋の人とかにあとから文句を言われたら申し訳ない。
でもどうしても帰りたかった。
ヤツと2人きりっていうのが耐えられなかった。
「どうして俺の話は聞いてくれないの?」
とカメ男の声が上から降ってきたので、私はようやくここで体の向きを変えてヤツと向かい合った。
私、ちょっと泣きべそ顔なんだけど。
だからこれ以上泣くまいと思って、口をへの字にしてヤツを見上げる。
「どうして大野はいつも先に俺の答えを勝手に出すの?」
カメ男はまるで学校の先生みたいな口調で私を責めた。
「俺はまだ何も言ってない。なんて言えばいいのか考えてた」
「答えなんて聞かなくたって分かるもん」
「分かってない」
「分かるんだってば!」
ええい、うるさーい!!
なんだってのよ、カメ男〜!!
「とにかくこの手をどけてくれない!?帰るんだから!!」
怒り心頭で言い放ったものの、ヤツは頑としてドアを開けることは許してくれず。
その代わり、いつもと変わりない表情と声で
「帰れ、って言うわけないでしょ」
とつぶやいた。