ウサギとカメの物語


キスをして分かった。
メガネってキスするにはちょっと邪魔なんだってこと。
微妙に私の顔に当たって、なんだかキスに集中出来ない。


カメ男は私の体を抱き寄せてきて、ピッタリ体をくっつけたままキスをする。
何度も、何度も。
角度を変えて、あっちへこっちへ。


キスってこんなに気持ちがいいものだったっけ。
ボーッとする頭でヤツの深いキスに応える。


いい加減息が切れそうになって、キスの合間にカメ男の肩を叩いて苦しさを訴えたら。


ヤツはキスをやめて私の体をひょいと持ち上げてベッドへ運ぶ。


これが夢のお姫様抱っこなのね……。
うっとりとした気分で3、4歩だけのお姫様抱っこに浸ってしまった。


スーツのジャケットを脱いで、ワイシャツ姿になったカメ男が私のコートを脱がせてきて、なんだかいよいよって雰囲気になって。
柄にもなくものすごく緊張する私のこわばった表情を見て、こんな時だっていうのにヤツは口元を緩めて笑ったのだ。


「やめる?」って。


何言ってんのよおおおおおおおお!!
今さらやめるとかおかしいんじゃないのおおおお!!
あれだけものすごいキスしといてそれは無いでしょーがあああああ!!


私の無言の訴えを拾い上げたカメ男は、ここでようやく黒縁メガネを外した。


ほらね。やっぱり。
意外といい顔してんのよ、実は。
イケメンじゃないんだけど、まぁまぁ整ってんのよ。


キスをしながらベッドに押し倒されて、ブラウスも脱がされて。
中に着ていたキャミソールに手がかかった時に、ハッと思い出す。


私の体を這うカメ男の手を無理やり止めて、念のため確認した。


「あのー……。私、貧乳なんだけど大丈夫かなぁ……」

「……………………………………うん」

「ねぇ、その間は何?」


私の問いかけにはカメ男は答えてくれなかった。


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