ウサギとカメの物語
思いもしなかった。
カメ男が意外と情熱的に抱いてくれるなんて。
もっと淡々と、黙々と抱くと思ってた。
キスをしたり、服を脱がせたり、そういう基本的な動作がすべてスムーズで。
慣れているというよりも、ゆっくり、丁寧で。
無駄のない動きみたいな感じかな。
手間取って、ゴメン、って言いそうなのに。
そんなの全然無かった。
そういうギャップに女は弱いよねぇ。
暖まりかけた部屋の中に吐息が混ざり合って、肌と肌が触れ合って、なによりも近くでくっついて。
より温かくなる。
こんなに素敵な一面があるのは、嬉しい誤算だなぁ。
大野梢、一生の不覚。
それは、カメ男に夢中になってしまったこと。
須和柊平という男は、カメみたいに着実にゆっくりと私の心を掴んで、そして忙しなくて落ち着きのないウサギみたいな私を、大きな体で包んでいった。