ウサギとカメの物語
2 ウサギのデートと、カメの地味な仕事ぶり。
月曜日。
週が変わり、仕事が始まる。
いつもの生活、いつもの仕事、いつものリズム。
制服のない私の会社では、事務員は派手すぎず露出しないキレイめな、まさにOLといった感じの服で出勤し、そのまま仕事を始める。
月曜日は配送の手配に各トラックへの振り分け、梱包チェックなど次から次へとやらなければならない仕事が多くてなかなか忙しい。
土曜日と日曜日の失態はひとまず置いといて。
私は仕事の段取りを考えながら出勤した。
「コズちゃん、おはよう」
「コズ、おはよ〜!」
女子更衣室でベテラン事務員の真野さんと、同期の奈々と遭遇した。
更衣室と言っても特に着替えなどは無いので、各自ロッカーにアウターを押し込み、カーディガンを羽織ったり、メイクのチェックをしたり、歯磨きをしたり。
思い思いに朝の時間を過ごすのだ。
奈々がパイプ椅子に座って手鏡の前でマスカラを塗りながら、「そういえばさぁ」と横目で私を見た。
「土曜日の夜は大丈夫だったの?」
「…………なにが?」
ギクッと肩を震わせたものの、その気持ちは絶対に悟られてなるものかと気を持ち直して、平然と着ていた薄手のニットのロングカーディガンを脱いでロッカーのハンガーにかけた。
目もくれずに準備を続ける私が不満だったのか、奈々はわざわざ立ち上がってマスカラのギザギザした先端を私に向けてきた。
「なにがって、帰りよ。コズったら珍しくぐでんぐでんに酔っ払っちゃってたじゃない?」
「そうよねぇ、私もコズちゃんがきちんと帰れたのか心配だったのよ」
奈々の隣で真野さんまでもが加勢してくる。
真野さんはというと、今ハマっているというコンビニの100円ホットコーヒーのコップを両手で包んで、ほっこり暖をとっていた。
これは、うまいこと言わないと変に疑われるな。
瞬時に判断した私は、ロッカーのS字フックに掛けておいた黒いシンプルなシュシュを取り出して、それで髪の毛をひとつに簡単に結いながらにっこり微笑んだ。
「同期のメガネにしっかりタクシーで送ってもらったから、ちゃ〜んと帰れましたよ〜」
「須和?あいつ役に立った?」
ケラケラと笑う奈々を見て、一瞬本気で「役に立つもんか!むしろ弱味握られちまったわ!」と頭を抱えて泣きつこうかとも思ったけれど、寸のところでやめた。