ウサギとカメの物語
私が目を真ん丸にして驚いているにも関わらず、ヤツはいつもの感じで淡々と続けた。
「好きなんでしょ、ロマンチックなの。だから今度は恋人として見に行こう」
「…………………………うん」
この男は全くもう。
どうしてくれるの、ほんとに。
嬉しすぎて、今日は実家に帰る予定だというのを伝えられなかった。
お父さん、お母さん。
ごめんなさい。
娘は大晦日に帰ります。
「何笑ってんの」
ニヤニヤする私の顔を見て、怪訝そうな表情を浮かべるカメ男。
恋人として、って。
すごく甘くて優しい響き。
嬉しくってとろけそう。
その日の夜、私とカメ男は定禅寺通りの光のページェントを見に行った。
ものすごく、とにかくものすごく混んでいた。
前に2人で見た時の比じゃないくらいに。
げんなりするカメ男の腕を取りながら、人と人の間をすり抜けるように2人で歩く。
おもむろに差し出してきたカメ男の左手を、右手で握る。
指と指を絡ませて、しっかり握ってくれた手からお互いの体温を感じて心まで温かくなった。