ウサギとカメの物語
年明け、まだお正月ムードが抜け切らないままの気分で会社に出勤した。
廊下で社員の人たちとすれ違うたびに「明けましておめでとうございます」と挨拶をしていく。
どこもかしこも同じ決まり文句をお互いに言い合う風景が広がる。
女子更衣室のロッカーに荷物やアウターを置いて、さて事務所に入ろうかと更衣室を出たところで、一際大きな声が背後から聞こえた。
「大野さんっ!!」
あまりにも通る声だったし、大声だったから驚きすぎて体が震えた。
怒号にも似た女性の金切り声に、私がゆっくり時間をかけて振り向くと。
腕を組んでこちらを睨みつけている総務課の久住がいた。
「大野さん!あなた、年末の同期会ドタキャンしたわね!?どういうつもりよ!?」
「うわぁ〜、ゴメン……」
久住。
やっぱり怒りに来たか〜。
でも確かに今回のことは私とカメ男が悪い。
連絡もしないで同期会に行かずに酔いどれ都に行っちゃったんだ。
「さっき須和くんにも言いに行ったんだけどね!ちっとも悪びれないから余計に怒鳴りつけてやったわ!」
あぁ、カメ男のことだから落ち着いた口調でしれっと失礼なことを言ってそうだなぁ。
フンッ!と鼻息を荒くする久住に、私は全力で謝った。
「ほんとにゴメン!次回はこういうことは無いようにするから!」
下手に言い訳するよりも謝り倒そう、と心に決めて両手を彼女の前で合わせていると。
久住はたいそう不満げに顔を歪めて、私の鎖骨のあたりに人差し指を突きつけてきた。
「ま、さ、か。須和くんの恋のお相手ってあなたじゃないでしょうね!?」
「は、はぁ!?」
とんでもなく的を得ていることを言ってるぞ、久住のヤツ。
激しく動揺しそうになったのをどうにか我慢して、シラを切る。
「そんな訳ないでしょうが〜。冗談きっついわ〜」
それを聞いた久住はピクッと片方だけ眉を上げて、少しだけ怒りが落ち着いてきたのか深呼吸をして。
私に突きつけていた人差し指を外した。