ウサギとカメの物語


「須和くんたら、もっとマシな言い訳してほしいわね!なんて言ったと思う?同期会よりも好きな女を取った、って普通に言うのよ!嫌になっちゃうわ!!」


チッと舌打ちした久住は、メガネをクイッと指先で上げて私に顔を近づけてきた。


「同じ事務所、同じ部署内の社内恋愛は異動の対象になるわよ!」

「や、やだなぁ久住。違うったら」

「違うのならいいわ!」


火を吹くんじゃないかってくらいの勢いで吐き捨てるように私に言うと、


「とりあえず!明けましておめでとう!今年もよろしくね!」


と、ツカツカとお尻を振りながら廊下を歩いていってしまった。


取り残された私は身震いする。
おぉ〜、怖っ!って。
カメ男のヤツ、言ってることはめちゃくちゃキュンとするんだけど、時と場合と、そして人を選ばないとダメでしょうが!


内心ドキドキしながら事務所へ入ると、先に出勤していた奈々が私の元へ素早くやって来て


「年末、同期会に来ないで須和とどこに行ったんだい?コズ殿」


と小声で耳打ちしてきた。
その彼女の顔は、やけに楽しそう。


あーあー、これは本当にバレちゃってるやつだね。
そりゃそうだよね。
同期会の直前にヤツがいる会社に戻るって宣言していなくなったんだから、バレないわけないよね。
久住じゃあるまいし。
さすがの私もそれくらいは分かった。


「詳しくはランチにて」


冷や汗タラタラでそう言うと、奈々はニッコリと微笑んで「分かったわ」って自分のデスクに戻っていく。


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