ウサギとカメの物語


思ってた以上に社内恋愛って面倒くさいのね。
しかも同じ部署内だし。
社内恋愛に関しては寛容なうちの会社だけど、さすがに同じ部署内だと久住も言っていた通り、どちらかが異動になる可能性が高い。


ということは、正真正銘、秘密にしないといけない恋愛なのかも。


きっと私は、とっても分かりやすい性格だから。
人一倍気をつけないとボロが出そうで不安になる。


美穂ちゃんが年明け初日からいつものように、各デスクにお茶を配ってくれていた。


「大野さん、おはようございます!今年もよろしくお願いします」


可愛い笑顔でお茶を差し出され、「こちらこそ」と笑みを返す。
また仕事が始まるんだと実感する瞬間。


デスクに置いてもらったお茶を飲みながら仕事に必要な物を引き出しから引っ張り出していると、須和が事務所に入ってきた姿が見えた。


途端に胸がドキドキしちゃって、うるさいことこの上ない。


ヤツはそばにいた真野さんにだけ挨拶をして、コートを脱いでマフラーを取るとそれらをイスに掛けてそのまま座った。


寒い外から暖かい事務所に入ったため、メガネが白く曇っている。
その姿はなんだかちょっと間抜けで笑えた。


全体朝礼がおこなわれ、藤代部長の新年の長ったらしい挨拶を聞きつつあくびを噛み殺す。
そんな私をカメ男は見逃さなかったらしく、遠くから「何やってるんだよ」って顔をしてこちらを見ていた。


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