ウサギとカメの物語


仕事の合間に、小休憩を兼ねて給湯室へ向かった。
12月は忙しすぎてほとんど来れなかった給湯室。
今の時期ももちろんまだ忙しいけれど、12月程じゃないから少しくらい休憩をとっても平気なのだ。


棚から職員用のコーヒー粉を出して、カップに入れて電気ポットのお湯を注ぐ。


コーヒー特有の苦い香りが給湯室に広がって鼻を刺激して、そしてその香りがリラックスさせてくれる。


カップに口をつけてぼんやりとシンクに視線を落とした。
また今日から仕事かと思うと気が重かったけど、来てみれば仕事はそれなりに楽しいし充実してる。


なにより……。
カメ男に4日ぶりに会えて、嬉しかったりして。
なーんて乙女なんでしょ、私。
ムフフ、と含み笑いをしていたら。


「イケメンとの妄想でもしてるの?」


と、急に声をかけられてビックリして「ぎゃあっ!」と叫んで飛び跳ねた。


いつの間にか隣にカメ男がいて、首をかしげて私の顔をのぞき込んでいたのだ。
一体いつからいたのか全然気づかなかった。
気づかないほどぼんやりしてた私も私だけど。


「もー!驚かせないでよ」


文句を言いながらヤツの分のコーヒーを入れてあげていたら、ため息混じりのカメ男の声。


「そういうちょっとしたことで飛び跳ねたりするところ。ウサギっぽい」

「…………………………どうせ私は落ち着きがないですよ」


小学生の時から成績表には「もう少し落ち着きましょう」と毎年書かれたもんだ。
いまだに親からネタにされるその事実に毎度うんざりする。


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