ウサギとカメの物語


もともと飲み会が大好きなうちの会社。
その日は秋の夜長と題して、土曜日の夜に会社の社員たちで飲み会をしていた。


基本的に事務員は月曜日から金曜日までの勤務で、配送依頼が立て込んでいる繁忙期などは時々土曜日も出勤したりする。


今日は特に忙しくもないということで私たち事務員は休みで、みんな仕事の時とは違うラフな服装で飲み会に参加していた。


もちろん私も例外ではなく、小綺麗にして出勤する普段とは違う、薄手のVネックの黒いニットにブルーの細身のデニムで飲んでいた。


わざわざ気合を入れてワンピとか着ている子もいたけれど、飲んで食べて騒ぐ場にそんな綺麗な格好なんてしてこれない!
私はとにかくお酒が大好きだから、飲み会と言ったら楽しみたいんだ!
……という自分の勝手な概念を元に、色気も何も無い服で上司にビールを注いでいた。


「さすが大野さんは大酒飲みなだけあって気も利くなぁ〜!」


と40代半ば若干ハゲ頭の藤代部長はいい気分になっている。


さっき新入社員の20歳の子がお酒を注いだ時に「やっぱり女の子は20代前半だな!」と部長が豪語していたのを、私は一生忘れない。
そういう言葉ってお酒の場だと本音が出やすいから。


悪かったですねー、20代後半で。
って心の中でつぶやいた。


本当は熊谷課長にもお酒を注ぎたかったけれども。
彼の周りには目をハートマークに変えてしまった女子社員たちが押し寄せ、まったくもって私の入り込む隙間なんて見える気配も無かったので諦めた。

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