ウサギとカメの物語
「ひぇぇ~、ごめん。すぐ直す!」
「3つ」
「へ?」
ボソッとつぶやいたヤツの声が聞き取れなくて、私は耳をすませるように左手を耳にあてる。
カメ男は大して声を大きくするでもなく、同じ調子で「3つ」と続けた。
「今週に入ってからのミス、3つめ」
この時の私の目。
漫画で言えば確実に点。
目が点ってまさにこのことっていう感じの目になっていたと思う。
「伝票の間違い2つ。サトウ総業へのFAXミス1つ」
私の様子なんかお構いなしに淡々とそう告げると、最後に私が持っている伝票の束をチラッと見て
「それ終わったら俺にちょうだい。倉庫にしまうの、場所的に大野じゃ届かない所に置くから」
とだけ言い残し、ゆら~っとゆっくり歩きながら自分のデスクへ戻っていった。
呆然とする私の向かいで、奈々がクククと肩を揺らして笑いを堪えているのが見える。
そして小声で「おぉ~怖っ」と震えるフリをして楽しんでいた。
なんだっつーんだよ、カメ男!!
そりゃミスした私が悪いんだけどさぁ!
てゆーか、この伝票のミス以外の2つ、身に覚えないっつーの!
ビックリしすぎて言い返す暇もなかったわ!
イライラカリカリMAX100%で目の奥で炎を燃やしながら、指摘された伝票の集計金額を正しく訂正して勢いよく立ち上がった。