ウサギとカメの物語


次々に熊谷課長に話しかけられる。
その都度、私は彼に合わせてうなずいて見せたり、感動して見せたり。


常に考えながら話さないといけないから、かなり頭を使った。




「この野菜、なんていうんだろう?ちょっと苦味があって、でも食感が面白いね」

「わぁ、私も同じこと思ってました!」

「あぁ、お肉もいい感じのレアで食べごたえあるね」

「やっぱりステーキはレアですよね~」

「リゾット美味しいな。やっぱり俺が美味しいって思うもの、頼んで正解だな」

「は、はい!いつも選んでくださって嬉しいです!」

「んん?このシャーベット、さっきなんのフルーツ使ってるって言ってたっけ?」

「確かザクロって言ってましたよー。こっちの方はグレープフルーツですって」



脳みそをフル稼働させてする会話。
途中でギブになって、申し訳ないけどお手洗いに行くと言って席を立った。


トイレに入って、腕時計で時間を確認する。


え、まだ1時間も経ってないの!?
もう2時間くらいいるぐらいの感覚なんですけど。


てゆーか、蒸し返すようだけど、付き合う気ないならなんで私とデートしてるわけ?
私は何をやってるの?
めちゃくちゃ気をつかって大人のオンナを演じて。


………………あれれ。


疲れてきちゃった。











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