ウサギとカメの物語
「ねぇ、まさかここの料理が食べたくて私に付き合ってくれてるとかじゃないよね?」
あまりにヤツが食欲旺盛なもんだから、もしかしてと思って尋ねてみる。
どちらかと言えば話を聞くというよりも、食を楽しんでいるようにしか見えないし。
カメ男はというと、私とは目も合わせずに
「まさか。同期を心配してる気持ちでいっぱいだよ」
と、信じられないほど棒読みで答えるのだった。
こいつ、間違いなく料理目当てだな!
ムキー!なんて奴だ!
まぁ、私だって誰かに愚痴りたかったからちょうどよかったんだけどさ。
そんな私たちの元へ女将さんがやって来て、ニコニコと笑みを浮かべながらカウンター越しに話しかけてきた。
「あら、今日はボーイフレンドと2人なのね。いつも女の子2人ってイメージだったから意外だわ」
「ボ、ボーイフレンド?」
食べかけていた鳥の手羽先(味噌胡麻味)を吐き出しそうになりながら、私は慌ててカメ男の腕を小突いた。
「こんな奴ボーイフレンドにもなりませんよ!同期ですよ、同期!」
「あら、そうなの?お似合いだったからてっきり恋人同士かと……」
「あははは、そんなバカな」
耐えきれずに爆笑する私の笑い声が思っていたよりも大きかったらしく、カメ男が「声を抑えてくれ」と耳をふさぐ。
「あ、そうだ。今日は特別に特上の牛タンが入ってるのよ。頼んでみない?とっても美味しいから」
さすが女将さん。
私の好み分かってるぅ!
牛タン大好きだって前に話したの覚えててくれたんだぁ。
感動しながら「お願いします」って言おうとしたら、先にカメ男が遮った。
「牛タン、超好き。お願いします」
目を真ん丸にする私の横で、珍しくカメ男が生き生きとした表情で女将さんに注文した。