Memories of Fire
「もう、ソフィー姉様こそ何をしたいのかわからないわ。しつこいのは嫌だって跳ね除けたくせに、構ってもらえなくなったらそうやってぷりぷりして」
「たぶん、クラウスはそんな澄ましたソフィー姉様が『好き』って言ってくれるのを待ってるんだよねぇ。根比べだね」

 マリーは呆れた様子でソフィーを責め、エルマーは面白そうに彼女をからかう。

「それってもうソフィー姉様の負けが見えているじゃない」
「ふふ。でしょー? クラウスもバルトルト伯父さん公認なんだから、早くやることやればいいのにねー」
「もう!」

 まったくソフィーの話を真剣に取り合ってくれない二人に我慢できなくなって、ソフィーはテーブルを叩いて立ち上がった。

「貴方たちに話したのが間違いだったわ。もういいわよ」

 ソフィーはくるりと彼らに背を向けて城へ戻り始める。

 クラウスが好き? 押されたい? ソフィーの負け?

 冗談じゃない。これは政略結婚だ。フラメ王国議会を一方の勢力に傾けることなく、王女が結婚する。たまたま、クラウスが文化省を束ねるハウアー家の息子で、ソフィーと年齢が近かっただけではないか。

 ソフィーの個人的な感情なんて何もないはずなのに――
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