Memories of Fire
 いつものように、マリーの寝室で肌を重ねた後……
 普段と違ったのは、二人ともようやく結婚が現実味を帯び、嬉しくて激しく抱き合ったこと。
 エルマーがぎゅっとマリーを抱きしめる。マリーは彼のすべてを受け止め、情事の余韻に浸るこの時間が好きだった。軽いノリの普段とは違う厳しさも見せる軍人の彼が、自分だけに見せる無防備な姿が愛おしい。

「エルマー……好きよ」
「ん、俺も」

 マリーがそう言うと、エルマーは嬉しそうに笑う。そしてキスをした後、名残惜しそうに身体を離した。

 トサッと、マリーの隣に寝転んだエルマーが彼女の胸に擦り寄ってくる。

「ごめん、今日早かったよね? やっとソフィー姉様とクラウスがくっついたから、嬉しくて、止まんなかった」
 照れながら言い訳するエルマーの髪を、マリーがそっと梳く。
「うん……私も、嬉しい」
「これで、もう薬飲まなくていいよね」
「へ……?」

 なんだかマリーの予想とは違う方向へ話が変わり、彼女は呆けた声を出した。

 エルマーの言う薬とは、避妊薬のことだ。クラドール――魔法で病や傷を治す者――が処方してくれる避妊薬は男女どちらが飲んでも効果がある。お互いに飲むこともあるし、どちらかが摂取していれば問題ないので、交互に飲むカップルもいる。

 二人の場合はエルマーが飲んでいた。マリーは避妊薬が合わない体質らしく、ちょっとした副作用が出てしまうからだ。

「俺たち、やっと結婚するでしょー? 早く子供ほしいよね! 実は、今日も飲んでないんだー! でもさ、ソフィー姉様たちの結婚式の後、すぐに結婚式するでしょ? だから間に合うと思うんだ。お腹が目立つ前に結婚式!」
「な――!?」
「まぁ、今日が当たるかどうかはわからないよね。えへへ、でも、楽しみだね。やっぱ女の子かな? ん? マリー、どうしたの?」

 ペラペラと喋るエルマーは、引き攣ったマリーの顔を見て不思議そうな顔をする。
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