Memories of Fire
「はぁ……」

 マリーは今日何度目かもわからないため息を吐き出した。廊下ですれ違う侍女や警備兵たちは会釈をしてくれるものの、皆の視線が哀れみを含んでいて憂鬱だ。

 あの夜、締め出しを食らったエルマーは自ら自分の失態を叫び謝り倒していたため、皆がすべての経緯を把握しているのである。

 エルマーを部屋から追い出して今日で四日目だろうか。

 自分から彼を避けているくせに、こんなに長く彼と口をきかないのは初めてで寂しいと……わがままな気持ちが顔を出す。

 父バルトルトの妹である叔母の身体が弱かったため、マリーが幼い頃は、叔母夫婦も城に住んでいた。バルトルトが彼女を心配していたことが一番大きな理由だが、城には優秀なクラドールが常駐しているからだ。

 小さい頃からお互いが好きで一緒にいるのが当たり前で、幼い頃は勉強や魔法鍛錬を共にしたし、食事や年頃になるまではお風呂だって一緒だった。

 いつからか恋人同士になった二人は、結婚の約束もしていたし、将来の話をすることだってよくある。

「はぁ……」

 エルマーの性格もよく知っているし、彼が舞い上がってしまったのだとは理解できる。マリーだってやっとそのときが巡ってきて嬉しいのは同じだ。

 でも……だからこそ許せなかったのだ。もう知っているから大事なことを口にしなくてもいいと思われてしまったみたいで……せっかく二人の記念日になるはずの日を軽んじているみたいで。

 お互いにわかっているからこそ、口にして欲しかったのに。
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