Memories of Fire
 そんなことを考えつつ、落ち着かない気分を紛らわそうと城の廊下を歩いていたマリーは、エントランスでばったりとエルマーに出くわした。

 そういえば、この時間はちょうど朝の議会が終わる頃だ。エルマーを迎えに行くのが日課のせいか、足が勝手に城を出ようとしていたらしい。

「マリー……!」

 エルマーはマリーを見つけるとパッと顔を輝かせて駆け寄ろうとしてくる。それを見て、マリーは反射的に踵を返した。

「ま、待ってよ! マリー!」

 長いスカートは性に合わず、与えられるドレスのスカートはいつも勝手に膝丈に切っていた。それが、こういうときに役立つ。

 エルマーと一緒にいたくて訓練に参加した結果、マリーには平均的な女性より体力がついた。速さもかなりある。

 とはいえ、やはり男女の差はある。エルマーはすぐにマリーに追いつき、力強く彼女の身体を引き寄せた。

「マリー! 待って!」

 ぎゅっと抱きしめられて、息ができないほど苦しい。エルマーはマリーの首筋に頬を摺り寄せて甘えるみたいな仕草をして、身体を離した。

「まりぃぃぃ」

 そして、マリーと目が合った途端に、うるうると瞳を潤ませて情けない声を出す。
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